短編小説

短編小説 「闇の中の伝達」

闇の中の伝達
犬鳴山のお寺の講堂は、静寂と緊張に包まれていた。連日の講習、睡眠は連日2時間ほど
。太郎のまぶたは重く、意識は夢と現の境をさまよっていた。
その日の課題は、リーダーからの伝達内容を正確にメモに取ること。お寺の講堂の照明の
下、紙とペンを握りしめ、太郎は必死に耳を澄ませていた。
だが突然、照明が消えた。
真っ暗な講堂。ざわめきが起こるかと思いきや、リーダーの声は止まらなかった。伝達は
続く。誰もが動揺しながらも、声に集中し、記憶に頼るしかなかった。
太郎は目を閉じた。暗闇の中で、むしろ視覚の邪魔がなくなったことで、言葉が鮮明に響
く。声の抑揚、リズム、意味。集中すれば、人は10個以上の情報を記憶できる——講師の
言葉が脳裏に蘇る。
講習が終わり、照明が戻ったとき、太郎は驚いた。自分の記憶が、紙よりも正確だったの
だ。
その夜、彼は知った。環境は常に変化する。だが、情報伝達の本質は変わらない。

光があろうとなかろうと、集中と意志があれば、人は伝え、受け取ることができる。
環境は予期せず変化するが、伝達の責任は変わらない。
人間は集中すれば、想像以上の記憶力を発揮できる。
情報とは、紙に書くものではなく、心に刻むものでもある。
暗闇は、光を奪うが、耳と心を研ぎ澄ます。

犬鳴山(七宝瀧寺、温泉街、行者の滝、ハイキングコース)/観光サイト

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