短編小説

短編小説 「しるしのある玄関」

短編小説「しるしのある玄関」
夕方、幼稚園から帰ってきた美咲は、玄関で靴をぽんと脱ぎ散らかした。
母は思わず声を荒げそうになったが、ふと入園式の日に園長先生が語った言葉を思い出した。

母は深呼吸をして、玄関の床に小さな星形のシールを貼った。
「ここに靴を置いてみようね。できたら、自分で丸をつけていいんだよ。」
美咲は目を輝かせ、靴をそろえて星の上に置いた。
「できた!」と声をあげ、母が用意した紙に自分で大きな丸を描く。
母はにっこり笑い、「そう、これが“できた”ってことだね」と言葉を添えた。
美咲は誇らしげに紙を掲げ、二人はその結果を一緒に眺めた。
玄関には、ただ靴が並んでいるだけなのに、そこには小さな成長の証があった。
母は思った。やみくもに怒るよりも、基準を示し、子ども自身が“できた”と感じられる場をつくること。
それが、園長先生の言葉の意味だったのだ。

この物語は「叱るよりも、基準を示し、子どもが自分で達成感を味わえるようにする」ことの大切さを、玄関で靴を脱ぐ日常の場面に重ねています。

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