5話 ロボットが働き、冷凍食品が並び、
人はボタンひとつで食事を済ませるようになった。
便利になった。
時間は節約できた。
効率は上がった。
だが、村上はふと気づく。
――人は、便利になればなるほど“生きている実感”を失っていくのではないか。
社員たちがカップラーメンをすする姿。
植物工場で育てられた均一な野菜。
サプリメントで栄養を補う生活。
そこには、かつて夜食のかつ丼を囲んで笑っていた頃の“温度”がなかった。
昭和の頃、村上の母はよく言っていた。
「もったいないことしたらあかんよ」
それは単に節約の言葉ではなかった。
食べ物を粗末にするな、
時間を無駄にするな、
人の縁を大切にしなさい、
そういう“生き方の哲学”だった。
そしてもうひとつ、村上の父がよく言っていた。
「人はな、生きがいがあったら強いんや」
給料でも、肩書でもない。
自分が誰かの役に立っているという実感。
自分の時間が意味を持つという感覚。
それが人を支えていた。
だが、便利さと効率を追い求めた社会は、
その“生きがい”を奪い始めている。
- マニュアル通りに働く仕事はロボットに置き換わる
- 人は「役割」を失い、「存在理由」を見失う
- ベーシックインカムが導入されれば、生きるために働く必要はなくなる
- だが、働かない人生は、本当に幸せなのか
村上は静かに思う。
――今こそ必要なのは、便利さではなく「もったいない」の精神。
そして、人が“生かされる”のではなく“生きる”ための、生きがいだ。
もったいないとは、
物を大切にすることだけではない。
人の時間を大切にすること。
人の経験を大切にすること。
人の人生を大切にすること。 - 生きがいとは、
- 効率では測れない価値。
- ロボットには持てない感情。
- AIには代替できない意味。
- 昭和の知恵が、
- 令和の社会に必要とされる日が来るとは、
- 誰が想像しただろう。
- 村上は窓の外を見ながら、
- 静かに呟いた。
- 「もったいない、を取り戻さなあかん。
- 生きがいを取り戻さなあかん。
- 便利さの先に、人間らしさを残すためにな」
- 外では、冬の風が街を吹き抜けていた。
- その風は、どこか懐かしく、そして新しい時代の匂いがした。