短編小説

短編小説 「プロとアマの境界が曖昧になった現代の創造者たち」

一話 境界のないスタジオ

  1. イントロ:ノイズのない部屋
    陽介は、六畳の防音室に座っていた。
    机の上にはMacBookとMIDIキーボード、壁には吸音パネル。
    彼はプロの作曲家だった。いや、少なくともそう名乗っていた。
    だが最近、SNSで見かける“アマチュア”たちの楽曲に、心がざわつく。
    中学生が作ったEDMが10万再生。
    無名のギタリストがSpotifyでバズっている。
    「プロって、何だろうな……」陽介はつぶやいた。
  2. 交差点:カフェでの出会い
    ある日、陽介は近所のカフェで、奇妙な音楽を聴いた。
    店内に流れていたのは、民族音楽とチップチューンが融合したような曲。
    「誰の曲ですか?」と店員に尋ねると、
    「常連さんの作品です。趣味で作ってるって言ってましたよ」と返ってきた。
    その“常連”は、隣の席でスケッチブックに音符を書いていた。
    名刺も持っていない。肩書きもない。
    ただ、音楽が好きで、作っているだけだった。
  3. 境界線:スタジオでの対話
    後日、陽介はその人物――名を「ミナト」と言った――を自宅スタジオに招いた。
    「君はプロじゃないのに、なぜそんなに自由なんだ?」
    陽介は思わず問いかけた。
    ミナトは笑った。
    「プロは“食べるために作る”。アマは“生きるために作る”。
    どちらが上とか下とかじゃなくて、ただ目的が違うだけ。」
    陽介は黙った。
    彼の中で、何かが崩れ、何かが芽生えた。
  4. エピローグ:境界のない創造
    数ヶ月後、陽介とミナトは共同で楽曲をリリースした。
    名義は「Studio Borderless」。
    プロでもアマでもない。
    ただ、音楽を愛する者たちの名前だった。
    その曲は、ジャンルを越え、肩書きを越え、
    聴く者の心に、静かに届いた。
    「プロとアマの境界」への一つの答えです。
    境界は、技術ではなく、目的に宿る。
    そしてその目的が交差するとき、創造はもっと自由になる。

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二話『型破りの一幕』

幕切れ:境界のない芸
終演後、ポン太は言った。
「型って、自由を閉じ込めるもんだと思ってたけど、自由を支えるもんなんすね。」
鶴之助は微笑んだ。
「笑いも、型も、人を動かす力だ。違いは、目的だけだ。」
二人は、芸の境界を越えた。
そしてその舞台は、観客の心に「型破りの美」を刻んだ。

幕開け:二人の舞台
銀座の小劇場で、異色のコラボ公演が企画された。
タイトルは「型破りの一幕」。
出演者は、歌舞伎界の名跡を継ぐ五代目・市川鶴之助と、吉本の若手芸人・田中ポン太。
鶴之助は、祖父の代から続く型を守る熟練の役者。
ポン太は、NSCを出たばかりの“素人感”が売りの芸人。
二人は初対面の稽古場で、互いに言葉を失った。

稽古:型と崩し
「セリフは、間が命です」
鶴之助は、ポン太の早口に眉をひそめた。
「間って、ウケた後の“間”っすよね?」
ポン太は、笑いのタイミングしか知らない。
稽古は噛み合わなかった。
鶴之助は型を重んじ、ポン太は型を壊す。
だが、ある日ポン太が即興でアドリブを入れた瞬間、
鶴之助の目が変わった。
「それ、面白い。だが、型に落とし込め」
二人の間に、奇妙な共鳴が生まれた。

本番:笑いと美の交差点
舞台は満席。
第一幕は、鶴之助の独演。
静寂の中、所作と声が空気を支配する。
第二幕、ポン太が登場。
観客は笑い、ざわめき、空気が揺れる。
そして第三幕――二人の共演。
鶴之助が型を崩し、ポン太が型に乗る。
笑いと美が交差し、拍手が劇場を包んだ。

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