第一章:青いスーツと夢
春の雨がしとしとと降る朝、営業マン・青山直人は新品のスーツに身を包み、胸を高鳴らせていた。名門大学を卒業し、大手ゲームメーカーに入社して半年。初めて任されたのは、郊外のゲームセンターへの直販営業だった。
「現金引換えが原則。納品時に必ず現金を受け取ること。これは絶対だぞ」
上司の言葉は耳に残っていたが、青山の頭の中は、クライアントとの信頼関係を築くことでいっぱいだった。
ゲームセンターの経営者・坂本は、初対面から親しげだった。雑談の中で「若いのに頑張ってるな」と肩を叩き、時には店の掃除を手伝わせ、「小遣いだ」と封筒を渡してきた。夜には居酒屋で酒を酌み交わし、「青山くんは信用できる」と笑った。
青山は、営業の成果が出始めたと感じていた。
そしてある日、坂本から大量注文が入った。ゲーム機10台、総額200万円。青山は歓喜し、トラックをチャーターして納品に向かった。
第二章:雨の午後、消えた現金
納品は滞りなく終わった。だが、現金の支払いを求めると、坂本は「事務員が銀行に行ってるから、午後にまた来て」と言った。
午後、青山が再び訪れると、坂本は「今日は忙しいから明日にして」と言う。翌日も、そのまた翌日も、坂本は「のらりくらり」と言い訳を重ねた。
ついには、「荷物なんて受け取ってない。裁判でもどうぞ」と言い放った。
青山は愕然とした。信頼していたはずの相手が、豹変したのだ。
会社に戻ると、上司の顔は険しかった。「現金引換えのルールを破ったのか?」その一言で、青山の立場は一変した。
第三章:信頼とは何か
青山は退職を余儀なくされた。会社はその後、現金引換えの徹底のために大手運送会社に業務委託することを決めた。
雨の中、青山は坂本のゲームセンターの前に立ち尽くした。ネオンが虚しく光る中、彼は自問した。
「信頼とは、感情ではなく、ルールの上に築くものだったのかもしれない」
