短編小説

短編小説 「広告の影」

第一章 光の男

山本俊也は、大手ゲーム会社の宣伝広告部門でマネージャーを務めていた。端正な顔立ちに加え、洗練された物腰。社内では「広告の貴公子」と呼ばれ、女性社員の憧れの的だった。彼には美しい恋人がいたが、彼女との交際には高級レストラン、ブランド品、海外旅行と、常に金がかかった。

そんな山本が目をつけたのが、広告代理店との取引だった。中堅代理店の営業担当、水野は誠実な男だったが、山本の出稿量に目がくらみ、次第に彼の要求に応じるようになった。広告枠の大量発注の見返りに、山本は個人的なバックリベートを受け取っていた。

第二章 雑貨と罠

山本はさらに、雑誌の読者プレゼントとして企画した雑貨を、社内の社員に配ることで自らの人気を高めていた。USBメモリ、キャラクターグッズ、限定Tシャツ——それらはすべて、代理店側が用意したものだった。

水野は次第に罪悪感に苛まれながらも、山本の指示に従い続けた。だが、ある日、広告代理店の社長が帳簿の不自然な動きに気づき、調査を開始。すべてが明るみに出た。

第三章 崩壊

水野は即座に解雇され、山本もゲーム会社から追放された。両者は損害賠償を支払うことで刑事事件になることを避けて和解したが、社内外の信用は地に落ちた。

山本はしばらく姿を消したが、数年後、別のエンタメ企業に転職していた。そして、驚くべきことに、彼は再び同じ手口を使い始めていた。新たな営業担当を取り込み、広告枠を操作し、裏で利益を得る——まるで何事もなかったかのように。

第四章 教訓

この話は、業界内で密かに語り継がれている。山本のような人物は、制度の隙間を巧みに突き、個人の欲望を企業の仕組みに溶け込ませる。だが、彼のような「広告の影」は、いつか必ず光に照らされる。

企業にとって、倫理とは単なるルールではない。それは、信頼という見えない資産を守る盾であり、社員一人ひとりの行動がその価値を左右する。

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